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通訳訓練(16)Sight Translation|英日 — 3

通訳・翻訳
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ようこそ「通訳訓練シリーズ」へ。この通訳ブログでは、英日サイト・トランスレーション(サイトラ)を4回にわたり扱っています。今回は、その3回目です。

サイトラの基本については、こちら⇩をどうぞ。

今回の通訳訓練をする前に、「順送り訳」のコツや、「意味のユニット」や、「スラッシュ・リーディング方式の訳」等をおさらいする方は、この2つの記事⇩をご覧ください。

また、英日通訳のコツ・工夫のまとめをおさらいする方はこちら⇩をどうぞ。

今回の練習教材

前回に続いて、使用する原文はオバマ大統領が2016年9月20日に国連総会で行った最後のスピーチです(出典 American Rhetoric)。内容は、彼の8年間の任期中に世界全体が進歩したことを称賛する一方で、世界平和と繁栄を脅かす対立と分断の動きに対して警告を発して、分断ではなく協調の道を歩むよう呼びかけるものです。今回は第28段落から第37段落までを訳出練習します。

サイトラ訳出練習

では、第28段落から、可能な限り原文の語順に添って、頭ごなしにサイトラ方式で訳出していきましょう。原文の各段落の下に、サイトラ参考訳例及び必要に応じて註を入れます。

I recognize not every country in this hall is going to follow the same model of governance. I do not think that America can — or should — impose our system of government on other countries. But there appears to be growing contest between authoritarianism and liberalism right now. And I want everybody to understand, I am not neutral in that contest. I believe in a liberal political order — an order built not just through elections and representative government, but also through respect for human rights and civil society, and independent judiciaries and the rule of law.

この会場におられる皆さん方すべての国が同じ統治モデルに従うわけではないことは承知しています。アメリカが自国の統治制度を他国に押し付けることはできないし、そうすべきでもないと思います。しかし、権威主義と自由主義との競合が現在、激化しているように見えます。そして、皆さんに理解していただきたいのですが、私はこの競合に関して中立ではありません。私は自由主義的な政治秩序を信じています。この秩序の基礎は、選挙や代議制政府だけでなく、人権と市民社会の尊重、独立した司法制度、法の支配です。

(註 — 1.「And I want everybody to understand」は「そして、皆さんに理解していただきたいのは、~です」と訳しがちですが、「理解していただきたいのは」と訳し始めますと文末で「~ということです」のような締めくくり方が必要になります。それに対して「そして、皆さんに理解していただきたいのですが」と言っておくと、文末の締めくくり方はもう少し自由がきくと思います。2.「an order built not just through elections and …」の部分は、通常は「それは選挙や代議制政府だけでなく・・・を通じて築かれる秩序です」のように「built」の訳が文末に来るかと思いますが、ここでは順送り方式の訳出をしています。)

I know that some countries, which now recognize the power of free markets, still reject the model of free societies. And perhaps those of us who have been promoting democracy feel somewhat discouraged since the end of the Cold War, because we’ve learned that liberal democracy will not just wash across the globe in a single wave. It turns out building accountable institutions is hard work — the work of generations. The gains are often fragile. Sometimes we take one step forward and then two steps back. In countries held together by borders drawn by colonial powers, with ethnic enclaves and tribal divisions, politics and elections can sometimes appear to be a zero-sum game. And so, given the difficulty in forging true democracy in the face of these pressures, it’s no surprise that some argue the future favors the strongman, a top-down model, rather than strong, democratic institutions.

自由市場の力は認識しつつも、自由社会のモデルは否定する国がいまだにあることは、私も承知しています。また、民主主義を推進してきたわれわれは、冷戦終結以来、少し落胆しています。なぜなら、自由民主主義が一挙に世界中に広がるということではないのだということが分かったからです。責任ある制度の構築は大変な仕事であり、何世代もの努力を要するということなのです。得られる成果は往々にして脆弱で、一歩進んで二歩下がることもあります。植民地勢力が敷いた国境線で国土が定義され、異民族の居留地や部族の分裂がある国々では、政治や選挙はゼロサムゲームのように見えることがあります。したがって、こうした圧力のもとで真の民主主義を築くことの難しさを考えると当然のことですが、トップダウン型の強権政治モデルのほうが堅固な民主主義制度よりも将来は有利になると主張する人たちがいます。

(註 — 最後の文「given the difficulty in forging true democracy in the face of these pressures, it’s no surprise that that some argue …」は「こうした圧力に直面して真の民主主義を築くことの難しさを考えると・・・~と主張する人たちがいるのも不思議ではありません」と訳するのが通常のやり方でしょう。ここでは、順送りのサイトラ式で、まず「こうした圧力のもとで真の民主主義を築くことの難しさを考えると当然のことですが」と訳しています。)

But I believe this thinking is wrong. I believe the road of true democracy remains the better path. I believe that in the 21st century, economies can only grow to a certain point until they need to open up — because entrepreneurs need to access information in order to invent; young people need a global education in order to thrive; independent media needs to check the abuses of power. Without this evolution, ultimately expectations of people will not be met; suppression and stagnation will set in. And history shows that strongmen are then left with two paths — permanent crackdown, which sparks strife at home, or scapegoating enemies abroad, which can lead to war.

しかし、私はこの考え方は間違っていると思います。私は真の民主主義の道が、より良い選択肢であることに変わりはないと信じています。21世紀には、個々の経済は一定程度までしか成長できず、開放が必要になると考えています。なぜなら、起業家は発明をするために情報にアクセスする必要があり、若者は繁栄するためにグローバルな教育を必要とし、独立したメディアは権力の濫用をチェックする必要があるからです。この進化がなければ、最終的には人々の期待に応えられず、抑圧と停滞が始まります。そして歴史を見れば、強権政治家の選択肢は次の2つだということが分かります。1つは永続的な弾圧で、これは、国内で争いを引き起こします。2つ目は、敵対する国をスケープゴートにするということで、これは戦争につながりかねません。

(註 — 1.「And history shows that」まで視点が来た時点で「そして歴史を見れば」と訳出し、適切なところまで来たら「~が分かります」と結んでいます。2.「scapegoating enemies abroad」という部分は、「abroad」という単語が原文にあるので、「海外の敵をスケープゴートにする」といった訳のように、「外国」や「海外」という言葉を訳に入れる必要があるように感じるかもしれませんが、例えば「敵対する国」と言えば、これは外国であることが明らかです。)

Now, I will admit, my belief that governments serve the individual, and not the other way around, is shaped by America’s story. Our nation began with a promise of freedom that applied only to the few. But because of our democratic Constitution, because of our Bill of Rights, because of our ideals, ordinary people were able to organize, and march, and protest, and ultimately, those ideals won out — opened doors for women and minorities and workers in ways that made our economy more productive and turned our diversity into a strength; that gave innovators the chance to transform every area of human endeavor; that made it possible for someone like me to be elected President of the United States.

さて、認めておきますが、政府が個人に奉仕するのであり、その逆ではないという私の信念の基となったのはアメリカの歴史です。私の国が成立したときは、少数の人々にのみ自由が約束されていました。しかし、民主的な憲法、権利章典、そして私たちの理想の基、普通の人々は組織化し、行進し、抗議することができ、最終的にその理想が勝利し、女性、少数派、労働者に扉が開かれ、経済の生産性が向上し、多様性が強みに変わりました。イノベーターたちに人間の努力のあらゆる分野を変革する機会が与えられ、私のような人間が米国大統領に選出されることが可能になったのです。

(註 — 1.第1センテンスは「Now, I will admit, my belief that」まで目が来た段階で「さて、認めておきますが」と訳出しています。2.「my belief that … is shaped by America’s story」の部分は、通常ですと「~という私の信念はアメリカの歴史により形作られています」のような訳をするかもしれません。しかしここではサイトラ式で、「という私の信念の基となったのはアメリカの歴史です」と順送り訳をしています。3.「because of」は「~のおかげで」のような訳し方をしがちですが、ここでは、「民主的な憲法、権利章典、そして私たちの理想のおかげで」と訳すよりも、「民主的な憲法、権利章典、そして私たちの理想の基」とするほうが自然ではないかと思います。)

So, yes, my views are shaped by the specific experiences of America, but I do not think this story is unique to America. Look at the transformation that’s taken place in countries as different as Japan and Chile, Indonesia, Botswana. The countries that have succeeded are ones in which people feel they have a stake.

ですから、確かに私の見解を形作ったのはアメリカ特有の経験ですが、この話はアメリカだけのものではないと思います。考えていただきたいのですが、まったく異なる国々で変革が起こりました。日本やチリ、インドネシア、ボツワナなどのことです。成功した国々は、人々が自分たちの利害関係を感じている国々です。

(註 — 1.「my views are shaped by the specific experiences of America」も順送り訳方式で処理しています。2.第2センテンスは、「Look at the transformation that’s taken place in countries as different as」まで視点が来た時点で「考えていただきたいのですが、まったく異なる国々で変革が起こりました」と訳出し、「日本やチリ、インドネシア、ボツワナなどのことです」と加えた形です。)

In Europe, the progress of those countries in the former Soviet bloc that embraced democracy stand in clear contrast to those that did not. After all, the people of Ukraine did not take to the streets because of some plot imposed from abroad. They took to the streets because their leadership was for sale and they had no recourse. They demanded change because they saw life get better for people in the Baltics and in Poland, societies that were more liberal, and democratic, and open than their own.

ヨーロッパでは、旧ソ連圏の国々の進歩は、民主主義を受け入れたかどうかで、明らかに対照的です。結局のところ、ウクライナの人々が街頭に繰り出したのは、外国から押し付けられた陰謀のせいではありません。彼らが街頭に繰り出したのは、彼らの指導者が売りに出され、他になすすべがなかったからです。彼らが変化を要求したのは、バルト諸国やポーランドの人々の暮らしが良くなったのを見たからであり、そういった国々では、自国よりも、自由で、民主的で、開かれた社会になっていたからです。

(註 — 1.「the progress of those countries in the former Soviet bloc that embraced democracy stand in clear contrast to those that did not」は、通常ですと「民主主義を受け入れた旧ソ連圏の国々の進歩は、受け入れなかった国々と明らかに対照的です」などのように訳されるかと思います。しかし、ここでは「that embraced democracy」まで視点が来た時点で、まず「旧ソ連圏の国々の進歩は」までを訳出しておいて、次の部分「stand in clear contrast to those that did not」が見えてきたら「民主主義を受け入れたかどうかで、明らかに対照的です」と訳しています。2.この段落の残りの部分は「主語+述語+because」の構造を持つ文が続いています。いずれも、頭ごなし方式で、「~したのは~からです」のように訳出しています。)

So those of us who believe in democracy, we need to speak out forcefully, because both the facts and history, I believe, are on our side. That doesn’t mean democracies are without flaws. It does mean that the cure for what ails our democracies is greater engagement by our citizens — not less.

ですから、民主主義を信じる私たちは、力強く声を上げる必要があります。なぜなら、事実と歴史は私が見る限り、どちらも私たちの味方だからです。民主主義に欠陥がないというわけではありませんが、民主主義が抱える問題の解決法は、市民の関与を増やすことであり、減らすことではないのです。

(註 — 「because both the facts and history, I believe, are on our side」に関してですが、ここにある「I believe」のような挿入語句を日本語訳に含めるのは難しいこともあります。一つの訳し方は「事実も歴史も、私たちの味方だと私は信じているからです」のようなやり方かもしれませんが、この訳ですと、「から」の直前に「私は信じている」があるために、理由の重心が「私は信じている」という部分になってしまいます。しかし原文では、理由は「事実も歴史も私たちの味方だ」ということです。)

Yes, in America, there is too much money in politics; too much entrenched partisanship; too little participation by citizens, in part because of a patchwork of laws that makes it harder to vote. In Europe, a well-intentioned Brussels often became too isolated from the normal push and pull of national politics. Too often, in capitals, decision-makers have forgotten that democracy needs to be driven by civic engagement from the bottom up, not governance by experts from the top down. And so these are real problems, and as leaders of democratic governments make the case for democracy abroad, we better strive harder to set a better example at home.

確かに、アメリカでは政治に金がかかりすぎ、党派に固執しすぎます。また、市民の政治参加も少なすぎますが、その理由の一つは選挙関連の法律が雑多で、投票を難しくしている点です。ヨーロッパでは、EUの政策が善意からではあるものの、しばしば通常の国政の駆け引きから隔たっています。首都にいる意思決定者はあまりにも忘れがちなのですが、民主主義は市民参加によって下から推し進めるものであり、専門家が上からトップダウンで運営するものではないのです。こういった状況は現実の問題であり、民主政府の指導者が海外で民主主義を主張するのなら、国内でより良い模範を示すよう、より一層努力すべきです。

(註 — 1.「Too often, in capitals, decision-makers have forgotten that democracy needs to 」の部分ですが、視点がここまで来たら、「首都にいる意思決定者はあまりにも忘れがちなのですが」のように訳出できます。2.「these are real problems」という語句の「these」は厳密には複数形ですので、「これは」ではなく「これらは」と訳すべきだという人もおられれば、「これらは」という表現が日本語としてはやや不自然だと感じる人もいるかもしれません。上のサイトラ例では「こういった状況は」と訳しています。)

Moreover, every country will organize its government informed by centuries of history, and the circumstances of geography, and the deeply held beliefs of its people. So I recognize a traditional society may value unity and cohesion more than a diverse country like my own, which was founded upon what, at the time, was a radical idea — the idea of the liberty of individual human beings endowed with certain God-given rights.

さらに、どの国にも、政府を組織する際の特徴として、何世紀にもわたる歴史や地理的状況、そして国民が深く抱いている信念があります。ですから、私は認識しているつもりですが、伝統的な社会は、団結と結束をより重視するという点で、私の国のような多様性に富んだ国とは異なるでしょう。私の国の建国基盤は、当時は急進的な考えでしたが、神が与えた一定の権利を有する個人の自由という思想です。

(註 — 1.最初の文ですが、「Moreover, every country will organize its government informed by centuries of history,」まで視点が来た時に、「by」以下が長くなりそうでしたので、ここまでを「さらに、どの国にも、政府を組織する際の特徴として」と訳出しています。ここにある「organize its government informed by」という語句は訳しにくいと思いました。一案は「~に基づいて政府を組織します」のような訳し方でしょうが、順送り訳に基づくサイトラ方式で処理したいため「~に基づいて」は使っていません。こういった場合に使うことを考えたいのが「~として」という表現です。2.第2センテンスの比較表現「a traditional society may value unity and cohesion more than a diverse country like my own, which was …」も、順送り訳しにくいです。ここでは「~という点で~とは異なる」と訳しています。)

But that does not mean that ordinary people in Asia, or Africa, or the Middle East somehow prefer arbitrary rule that denies them a voice in the decisions that can shape their lives. I believe that spirit is universal. And if any of you doubt the universality of that desire, listen to the voices of young people everywhere who call out for freedom, and dignity, and the opportunity to control their own lives.

しかし、だからといって、アジアやアフリカ、中東の一般の人々が、何も独断的な統治を好んでいるわけではなく、自らの人生を左右する決定において発言権を奪われることは望んでいません。こういった精神は普遍的なものだと私は信じています。もし皆さんの中にその普遍性を疑う方がおられるのなら、耳を傾けて、世界中で若者が自由と尊厳、そして自分の人生を決める権利を求める声を聞いてください。

(註 — 1.最初の文では、「But that does not mean that 」をまず、「しかし、だからといって」と訳しておいて、「ordinary people in Asia, or Africa, or the Middle East somehow prefer arbitrary rule that denies」まで視点が来た時に、「that denies」以下の関係節は後で処理しようと考えて「アジアやアフリカ、中東の一般の人々が、何も独断的な統治を好んでいるわけではなく」と訳出しています。後半部分の訳「自らの人生を左右する決定において発言権を奪われることは望んでいません」では、「~ことは望んでいません」という述部表現に相当する英語は原文には、厳密には存在しませんが、前半にあった「prefer」の意味を表しています。つまり、「prefer」という1つの動詞を、2つの述語表現で訳した形です。2.「doubt the universality of that desire」の訳は注意を要します。これを「その願望の普遍性を疑う」というように直訳すると、あたかも「独断的な統治を好んでいる」ということ自体が普遍的だと言っているように、一瞬聞こえるかもしれません。ですので、上のサイトラ訳例では、あえて「desire」は表に出さずに「その普遍性」と訳しています。文脈から、意味は明らかです。3.「listen to the voices of young people everywhere who call out …」の部分は、通常の翻訳ですと「~を求める世界中の若者の声に耳を傾けてください」のように訳すかもしれませんが、順送り訳をしたいので、まず「耳を傾けて」と訳出しています。そのあと「若者が・・・を求める声を」と続けるのですが、「耳を傾けて」という語句を発声するときに自分の耳もそれを聞いているので、文末の締めくくりはそれにふさわしいものにしようと頭が働きます。4.「the opportunity to control their own lives」は訳しにくいです。問題は2つあります。まず「control their own lives」は「自分の人生をコントロールする」と訳すのか、あるいは「自分の人生を決める」と訳すのかということです。もう1つは「opportunity」を「機会」と訳すのがふさわしいのかどうかです。上のサイトラ訳例では「自分の人生を決める権利を求める」としています。)

まとめ

以上が、英日通訳のサイトラ訓練の3回目でした。こういった訓練は、一回に費やす時間の多さよりも、訓練をする頻度のほうが大切だと思います。例えば、1か月に1回、3時間の通訳練習をするよりも、1回30分の練習を毎日するほうが、通訳スキルは向上するでしょう。

練習のための教材は何でもいいと思います。このウェブサイトの教材を繰り返し使ってもいいでしょうし、ご自分で何らかの英文をインターネットその他で選んでもいいでしょう。頑張ってください。

次回は英日サイトラ訓練の4回目を予定しています。

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★ 英日通訳のコツ・工夫のまとめはこちら ⇩ です。

★ 順送り訳(頭ごなしの訳)についてはこちら ⇩ をどうぞ。

★ 通訳に関心がある人にとって読む価値のある本を、こちらで ⇩ 紹介しています。

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