この記事では、英日同時通訳で有益な接続表現(接続語)をまとめています。
通訳における接続表現の重要性は、述語表現とも共通している部分があります。述語表現についてはこちらをどうぞ。
英日同時通訳においては、1つのセンテンス(文)が次のセンテンスにどのようにつながっていくのかが、まだはっきりしていない時でも、しばしば1つ目のセンテンスを訳し始める必要があります。そして、次のセンテンスが聞こえてきて、論理の流れが、順接なのか、逆接なのか、理由と結論なのか、原因と結果なのかなどが判明したら、1つ目と2つ目のセンテンスのつながり部分を訳出することができるのです。
前後のセンテンスをつなぐ接続部分には、接続詞がつかえます。また、センテンス(文)とセンテンスをつなぐのではなく節(clause)と節をつなぐ接続助詞などの接続表現も効果的です。
前後の文をつなぐ接続詞
まず、接続詞をざっと見てみます。接続詞は、1つのセンテンスが完結した後、次のセンテンスを始める際に、話の流れがスムーズになるように使われる表現ですね。種類別にいくつか接続詞の例を記していきます。
接続詞の種類、例
理由・結論:「従いまして」「以上のことから」「こうした背景から」「これらのことを踏まえ」
原因・結果:「その結果」「そうすることで」「これにより」「これによって」
逆接:「しかしながら」「とはいえ」「ところが」「それでも」「しかしだからといって」
並列・列挙:「また」「同時に」「同様に」
添加・累加:「さらに」「それに加えて」「そのうえ」「しかも」「このほかに」「そればかりでなく」
対比:「一方」「他方」「反対に」「反面」「その点」「この点」
前後の節をつなぐ接続表現(接続助詞など)
接続詞はもちろん便利ですが、1つ目のセンテンスを完結せずに接続表現を使って次のセンテンスにつなげる(2つの節を連結する)という方法を通訳ではしばしば用います。そうすれば音節数が若干少なくなり、訳出に要する時間も少し短縮できるからです。また、通訳を聞いている人にとっても、より聞きやすい日本語になる場合が多いでしょう。実際に、日本語の話し言葉ではこのようなしゃべり方をする場合が多いと思います。
まず、日本語の例文をいくつか見てみましょう。接続表現に下線を引きます。
「イスラム過激派が地の利のある北部の山岳地帯で抵抗を続けていることから、フランス国防省は、今後も段階的に部隊の数を減らすものの、ことし7月までは2000人規模の部隊を維持し、軍事作戦を続けるとしています。」(出典:NHKニュース)
「ドイツでは、使用済み核燃料など高レベル放射性廃棄物の最終処分場選びが、候補地だった北部のゴアレーベンが住民の反対運動で白紙となったため、日本やアメリカなど原発があるほかの国と同様懸案となっています。」(出典:NHKニュース)
「会見した団体は、残業が減り、過労死が無くなることを目的に議論すべきだとし、残業時間に関わらず一定額を支払う今の仕組みについて廃止を含めて見直し、時間に応じた支払い方法を検討することや、残業の上限を超えた場合の管理職や教育委員会の責任を明確にするなど、抜本的な改善を求めました。」(出典:NHKニュース)
理由を示す接続表現としては、「~なので」や「~ですので」などの表現を私は使いがちですが、それ以外にも「~ことから」や「~ため」など、様々な言い方がいつでもできるようにしておきたいと思います。
逆接表現も、「~ですが」ばかりでなく「~ものの」など他の表現も使えるほうがいいですね。
節をつなぐ接続表現の種類
それでは、節をつなぐ接続表現の例を種類別に見ていきます。
「逆接」表現
「~が」「~けれど(も)」「~ても」「~のに」「~ですが」「~ながら(も)」「~にもかかわらず」「~ものの」「~にかかわらず」「~といっても」「~とはいえ」「~からといって」「~ところで」「~しつつも」等
日本語の例文をいくつか見ます。
「接触では北朝鮮による日本人の拉致問題や高官級会談の開催などについて話し合われたものの、見解の違いは埋まらなかったとしています。」(出典:NHKニュース)
「彼女は自分自身も被災しながらも多くの人を励ます活動を続けてきました。」
「こういった問題は、あれこれ考えたところで、すぐに解決できるわけではありません。」
訳例を見てください。英語のスピーチを通訳しているつもりで訳出します。原文は、2015年に地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」が採択された後、オバマ大統領がホワイトハウスで12月12日に行ったスピーチです。(出典:American Rhetoric)
This agreement is ambitious, with every nation setting and committing to their own specific targets, even as we take into account differences among nations.
この合意は野心的で、すべての国がそれぞれの具体的な目標を設定し、その達成を約束しつつも、国家間の相違は考慮しています。
下線部分が接続表現です。
「順接(理由など)」表現
「~から」「~ことから」「~ので」「~ため(に)」「~なので」「~ですので」「~ため」「~ことになり」「~ところによると」「~ことを受け(て)」「~ことにより」「~ことが分かり」「~ことを決め」「~こともあって」「~ことになると」「~ことを明らかにし」「~ことに加え」「~ことになるが」「~ことができず」「~だとし(て)」「~恐れがあるとし(て)」「~ことになっており」「~ことになれば」「~必要があり」「~ことを踏まえ」「~方針を固め」「~ことに関連して」「~事態を受け」「~おかげで」「~せいで」「~の(ん)だから」「~ものだから」「~からか」「~からこそ」「~からには」等
日本語の例文を見てみましょう。
「スーダンの治安状況が悪化していることから、政府は現地の日本大使館を、一時閉鎖し、周辺国のジブチに臨時事務所を設置しました。」(出典:NHKニュース)
「研究開発機構は、ロケットの向きを制御する装置に燃料を送り込む配管が別の部品でふさがったため十分に作動しなかったとする結論をまとめました。」(出典:NHKニュース)
「NATO=北大西洋条約機構と日本などのパートナー国による外相会合がベルギーで開かれ、林外務大臣はインド太平洋地域の情勢が厳しさを増していることを踏まえ、NATO各国などとの連携強化を図る考えを強調しました。」(出典:NHKニュース)
訳例です。先ほどと同じオバマ大統領のパリ協定についてのスピーチが原文です。(出典:American Rhetoric)
I imagine taking my grandkids, if I’m lucky enough to have some, to the park someday, and holding their hands, and hearing their laughter, and watching a quiet sunset, all the while knowing that our work today prevented an alternate future that could have been grim; that our work, here and now, gave future generations cleaner air, and cleaner water, and a more sustainable planet.
私は想像するのです。幸運にも孫に恵まれたら、いつか公園に連れて行き、手を握り、笑い声を聞き、静かな夕日を眺めながら、今日私たちがこの仕事を成し遂げたからこそ、悲惨であったかもしれない別の未来を阻止でき、今ここでこの仕事をやり遂げたからこそ、将来の世代にきれいな空気ときれいな水、そしてより持続可能な地球をもたらせたということを思い返している自分を想像するのです。
「単純な接続」表現
「〜ですが」「〜したところ」「~し」「~しましたが」等
日本語の例文です。
「ドリアンは何とも言えない匂いがするのですが、食べてみたところが、大変おいしい果物でした。」
「~ところが」が単純な接続表現です。このセンテンスでは、「~のですが」は逆接表現ですね。
「若い頃イギリスに行ったのですが、タバコの値段が日本の2倍以上だったのには驚きました。」
このセンテンスでは、「~のですが」は単純な接続の表現です。
訳例を見ましょう。原文は再びオバマ大統領のパリ協定スピーチです。(出典:American Rhetoric)
In 2009, we helped salvage a chaotic Copenhagen Summit and established the principle that all countries had a role to play in combating climate change.
2009年、混乱していたコペンハーゲン会議で私たちは何とか一定の成果をあげることに貢献しましたが、これによって、すべての国が気候変動対策に果たすべき役割があるという原則を確立できたのです。
「並立の関係」を示す表現
「~て」「~で」「~ば」「~が」「~たり」「~けれど(けれども)」「~しつつ」「~しながら」「~一方で」「~する反面」「~と同時に」「~とともに」等
日本語の例文を見ます。
「今年の夏は、ディズニーランドへ行ったり、プロ野球の試合を見に球場に行ったりする予定です。」
「この子は、国語もよくできますが、体育も成績抜群です。」
訳例を見ましょう。再びオバマ大統領のパリ協定スピーチが原文です。(出典:American Rhetoric)
We’ve driven our economic output to all-time highs while driving our carbon pollution down to its lowest level in nearly two decades.
我々は経済生産高を過去最高水準に押し上げる一方で、二酸化炭素排出量はこの20年近くの間での最低レベルにまで削減しました。
逆接、順接、単純な接続のどれにでも使える表現
「~なか」「~ですが」「~しますが」「~でしょうが」「~しましたが」「~けれども」等
上の「単純な接続」との区別が明白ではない場合が多いのですが、便宜上ここに別の項目を設けています。
まず、日本語の例文を見ます。
「岸田総理大臣が拉致問題の解決に向けて日朝首脳会談の早期実現のため、ハイレベル協議を始めたいという考えを示している中、韓国では日朝間の動きに関心が集まっています。」(出典:NHKニュース)
「新型コロナウイルスの影響で運動する機会が減っているなか、体を動かすことが進行の食い止めに効果があるとされるパーキンソン病の患者のためのダンスの講習会が、オンラインで行われました。」(出典:NHKニュース)
「台湾問題が緊迫化するなかでの今回の選挙ですが、蔡英文総統が主席を務める与党・民進党と、中国に対し融和路線を維持するとしている野党の国民党が各地で激しく争う展開となっています。」(出典:テレビ朝日ニュース)
「~ですが」「~でしょうが」「~しましたが」「~けれども」などの表現は、実は、英日通訳では特に有益です。頭ごなしに訳していく中で、「そろそろ、一区切りつけたい、一つの意味的なまとまりの訳をひとまず形にしておきたいが、その次の部分との論理的なつながりが逆接なのか順接なのかわからない」云々、というような場合に、特に有効です。(「意味的なまとまり」についてはこちらをご覧ください。)
例えば、次の一節を見てください。原文は、オバマ大統領が2015年1月に銃規制問題をテーマに行ったWeekly Address(毎週土曜日のスピーチ)からの抜粋です。(出典:American Rhetoric)
Last month, we remembered the third anniversary Newtown. This Friday, I’ll be thinking about my friend Gabby Giffords, five years into her recovery from the shooting in Tucson.
まずこれを学校で習った通常の英文和訳方式で訳します。
✖ 先月、私たちはニュータウンの3周年に思いを馳せました。今週の金曜日には、ツーソンでの銃乱射事件からの回復途上5年になる友人のギャビー・ギフォーズのことを考えます。
次に、通訳をしているつもりで順送り訳をします。1つ目のセンテンスは先ほどの訳で構わないでしょう。しかし、2つ目のセンテンスは、私ならば、頭ごなしに訳したいところです。
〇 先月、私たちはニュータウンの3周年に思いを馳せました。今週の金曜日には、友人のギャビー・ギフォーズのことを考えるのですが、ギャビーはツーソンでの銃乱射事件からの回復途上5年になります。
私にとっては、下線を引いた「~ですが」という接続表現が、ここでは有効でした。
同じスピーチから、もう1つ別の部分を引用します。(出典:American Rhetoric)
I get letters from responsible gun owners who grieve with us every time these tragedies happen; who share my belief that the Second Amendment guarantees a right to bear arms; and who share my belief we can protect that right while keeping an irresponsible, dangerous few from inflicting harm on a massive scale.
長いですが、1つのセンテンスですね。まずは、通常の英文和訳方式で訳します。
✖ このような悲劇が起こるたびに私たちとともに悲しみ、憲法修正第2条が武器を持つ権利を保証しているという私の信念を共有し、無責任で危険な少数の人々が大規模な危害を加えないようにしながら、その権利を守ることができるという私の信念を共有する、責任ある銃の所有者たちから手紙を受け取るのです。
関係節が大変長く、このような通訳をしたら聞いているクライアントにはわかりにくい日本語かもしれません。それに、そもそも、そのような訳し方は同時通訳では困難ですね。
では、通訳をするつもりで順送り訳をしてみます。
〇 このような悲劇が起こるたびに私たちとともに悲しむ責任ある銃の所有者である人たちから手紙を受け取るのですが、彼らは、憲法修正第2条が武器を持つ権利を保証しているという私の信念を共有していますし、その権利を守りながらも、無責任で危険な少数の人々が大規模な危害を加えることを防ぐことは可能だという私の信念を共有する人たちです。
この訳においても、私にとっては接続表現が有効でした。「~ですが」という表現が、逆接や順接等どれにでも使える表現ですね。「~ながらも」は逆接表現で、「~し」は並列表現です。
ただ、こういった表現は、聞いている側には,逆接なのか順接なのかがはっきり伝わらないということは、念頭に置いておきます。
ここに挙げた表現については、こちらの記事でも触れています。
まとめ
今回は、英日通訳で有益な接続表現を考えました。前後のセンテンス(文)や節をスムーズにつなぎ、原文の意味がよどみなく訳出できるように、日本語類語・同義語辞典なども活用して、自分の使える表現を豊富に持っておきたいですね。
次回からは、sight translation を取り上げる予定です。まずは、英日をやって、その次に日英を練習していきます。
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★ 通訳に関心がある人にとって読む価値のある本を、こちらで ⇩ 紹介しています。
★ 英日通訳のコツをこちらで ⇩ まとめています。
★ 順送り訳(頭ごなしの訳)についてはこちら ⇩ をどうぞ。