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【英日通訳】有益な日本語の述部表現

通訳・翻訳
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この記事では、英日通訳で有益な述部表現をまとめています。英日通訳においては、センテンス(文)の締めくくりをうまくまとめるスキルは大変重要です。

なぜ述部表現が大切?

通訳をするときは、逐次でも同時でも、訳を考えながらしゃべっていきます。まれに例外もありますが、一つのセンテンス全体を頭の中で構築してから、そのセンテンスを話し始めるわけではありません。通常、日本語のセンテンスの最後に来るのは述語ですね。センテンスの最初の部分とつじつまが合う締めくくり方をするためには、適切な述部表現を使う必要があります。訳は、当然のことながら、原文の意味に忠実でなければいけないという制約もあります。したがって、センテンスをしゃべり始めた後、そのセンテンスをきちんと完結できるように、自分の使える述語表現(色々な文末表現)を豊富に持っておきたいものです。

この文末表現の大切さを考え始めたのは、実は自分があるスピーチの通訳をしていて困った苦い経験からです。かなり前のことであり、原文をはっきりとは覚えていませんが、おおむね、次のような文でした。

The association says that this is a particularly dangerous situation.

私は、「同協会は、これは特に危険な状況だと・・・」まで訳して、そのあと、このセンテンスをどう締めくくるか困ったのです。「同協会は・・・だと言っています」では、何かおかしいように感じたのですが、その他にどのような表現で締めくくればよいのか、そのときは、とっさに思いつかなかったのです。今このスピーチの通訳をするのなら、「同協会は、これは特に危険な状況だとしています」などの締めくくり方をするかもしれません。「言う」という意味を表す他の表現を使えるようにしておかねばいけないと痛感した経験でした。

英日通訳で順送り訳(頭ごなし訳)をするためには、「言う」という意味を表す表現に限らず、述部表現を豊富に持ち合わせておくことは大切だと思います。

もう一つ例を見てみましょう。これはこの通訳訓練ブログで何度か使っているオバマ大統領のコペンハーゲン会議でのスピーチの一部です。オバマ大統領が、米国は単独でも排出緩和策やクリーンエネルギー経済への移行を進めていくが、世界全体がそういう動きを取っていけば全世界がより安全になると述べている文脈で、次のように続けます。

That’s why it is in our mutual interest to achieve a global accord in which we agree to certain steps, and to hold each other accountable to certain commitments.

これを順送り訳します。

だからこそ、お互いのために、国際的な協定を結び、一定の手順に合意し、一定の約束に対して互いに責任を負うよう取り決めることが有益なのです。

文末の「が有益なのです」に対応する原文部分は「it is in our mutual interest to」です。ただし、「mutual」はすでに初めのほうで「お互いのために」と訳出しています。「お互いのために」と訳出したので、締めくくりは、それにうまくつじつまが合うような表現を使う必要があり、ここでは「有益なのです」と訳しました。もちろん、ほかにも使用可能な表現はあります。

では、別の訳し方でこのセンテンスを訳すことを考えてみましょう。例えば「our mutual interest」をそのまま「相互利益」と訳すとすると、文末はどうしましょうか。

ですから、相互利益のためには、国際的な協定を結び、一定の手順に合意し、一定の約束に対して互いに責任を負うよう取り決めるべきです。

いかがですか。よりうまい訳が可能だろうと思いますが、今は思いつきません。

いずれにせよ、述部表現の大切さがお分かりただけると思います。そして、これも、順送り訳(頭ごなし訳)をするための工夫ですね。

この記事の範囲

ここに記すのは、有益だと私が思う表現の一部です。こういった表現は限りなくあります。また、通訳者が持ち合わせている、いつでもすらすらと口をついて出てくる表現には個人差があります。ここに含めているのはあくまでも私自身が、改めて書き記しておくことが有益だと感じる表現です。

それでは、キーワードや概念を基準に分類していきます。

「言う」という意味を表す動詞の訳し方

「言う」という意味を表す動詞は頻出しますが、例えば「首相が〜と言っています」などと通訳すると素人っぽく聞こえるので、要注意ですね。使える表現をいくつかリストアップしてみます。

「〜と発言しました。」

「〜と述べました。」

「〜と話しています。」

「〜と話していました。」

「〜と指摘しています。」

「〜したい考えを示しました。」

「〜と注意を呼びかけています。」

「(原発の安全は確認されている)という見方を示しました。」

「〜方針を示しています。」

「(冷静に対処する)姿勢を示しました。」

「〜を強調しました。」

また、政府や公共機関、会社、協会、その他の組織など「人」ではないものが主語である場合は、「~と述べました」や「~と話しています」などと言いにくいので、次の例文にある「~としています」は便利な表現ですね。

政府は今後もこの件に関しては、協議を続けていくとしています。

また、「人」ではないものが主語である場合の述部表現として「コメントする」も次のように使うことが出来ます。

四国電力は「稼働中の原子力発電所の運転を差し止める初の決定であり、たいへん驚いている」とコメントしています。(NHKニュース)

NTTドコモは「お客様にはご迷惑とご心配をおかけし深くお詫び申し上げます」とコメントしています。(NHKニュース)

言質を与えないための表現(中立性を示す為に使う)

例えば次のような原文を訳すとします。

The ransom note was from LockBit, which is thought to have links to Russia. (The Guardian, Jan 13, 2023)

身代金要求は、ロシアとつながりがあるとされるロックビットからのものでした。

下線部分が言質を与えないための英語表現ですね。それを和訳では「~とされる」という表現で訳しています。もしも、「ロシアとつながりがあるロックビット」と訳してしまうと、つながりを断定しているような印象を与えてしまいます。

こういったことも通訳するときに注意したいですね。使える表現をいくつか記します。

「〜と見られます」

「(自殺した)とされる」

「(アルカイダとのつながり)が指摘される」

「〜ということです」

「〜とみられるということです」

「〜(原発の管理責任者は被害はない)としています」

「〜がほしい」「~してほしい」という意味を表す表現

注意したいのは、「want」を「〜(して)ほしい」と通訳すると素人っぽく聞こえるということです。ただし引用部分では使えることもあります。例えば、「NEXCO西日本は、『ホームページなどで最新の情報を確認してほしい』としています」というような場合です。

では、「~ほしい」の代わりに、どのように言えば良いでしょうか。

「〜を(するよう)求めました」

「〜を(するよう)要請しました」

「〜を(するよう)依頼しました」

「〜を(するよう)要求しています」

「〜するよう呼び掛けています」

懸念・課題等を示す表現

「〜(順調に進むかどうか)は不透明です」

「〜が課題となります」

「〜(合意を得られる)のかなど課題も指摘されています」

「〜という{との}懸念も{が}あります{が高まっています}{広がっています}{が出ています}」

「〜という問題も{が}あります」

「〜という声も{が}あります」

「〜という問題が露呈しました」

「水を差された形です」

「疑問を呈した格好です」

「〜という事態となっています」

「住民に不安が広がっています」

「〜する恐れがあります」

「〜しかねない状況です」

最後の2つは「〜するかも知れない」という意味です。私は「かも知れない」という表現を使いすぎる傾向があるので、その多用を軽減するためにも、「~しかねない」など他の表現を使うことを心がけたいと思います。

関心や興味を示す表現

「その行方にも関心が集まっています」

「関心が寄せられています」

「関心が高まって{深まって}います」

「関心の目が向けられています」

「耳目を集めています」

「視線が向けられています」

「視線がそそがれています」

「着目されています」

「注目されています」

「興味を持つ人が増えています」

「興味があると話しています」

意見・提案等を示す表現

「〜について意見を交わしました」

「〜という指摘{意見}も{が}あります」

「〜という考え方{見方}も{が}あります」

「〜という提案も{が}あります」

「周知を丁寧に行う考えを示しました」

「~とする考え方を示しました」

「可能性があるとの見方を示しました」

「~する意向を示しています」

「~する意向を固めました」

「~たど評価しています」

「~と主張しています」

「~との見解を示しました」

異見・反論する等の表現

「異議を唱えています」

「指摘しています」

「抗議しています」

「反対しています」

「反論しています」

有益であるという意味の表現

「有利に働きます」

「有利になるでしょう」

「いい方に向かうでしょう」

「いい方に働くでしょう」

「プラスに働くでしょう」

「プラスになるでしょう」

「ためになります」

「有益です」

「よい影響を与える{及ぼす}でしょう」

「利益をもたらす{与える}でしょう」

「メリットをもたらすでしょう」

「資するでしょう」

賢明・順当な判断を示す表現

「妥当です」

「正当です」

「順当です」

「合理的です」

これらの反意表現も、ここで考えてみます。

「不合理です」

「非合理です」

「不条理です」

「理不尽です」

「非論理的です」

「首尾一貫していません」

状況表現

「〜という状況です{状況が続いています}」

「〜という状態です{状態が続いています}」

「~という状勢です」

「関係者の動静をうかがっています」

「~にふさわしい環境を醸成することが求められています」

「安心な環境を形成してゆくことが重要です」

「様相を呈しています」

「様相をおびてきています」

「業務を行いながらノウハウや知識を身につけていった形です」

範囲・長さ等を示す表現

「多岐にわたるものです」

「長期にわたるものです」

「長時間にわたるものです」

「~から~にわたるものです」

「~に及ぶものです」

「~に及びます」

名詞にふさわしい様々な述部表現を使えるようにしよう

また、コロケーション(単語と単語の相性の良さ)も大切です。特に、どのような名詞に、どのような述語がふさわしいのかが即座にわかり、いつでも適切な述語表現を使えるようにしておきたいですね。ここでは2つだけを例に挙げます。

まず「若者の失業率」という名詞句と馬が合う述語表現を考えてみましょう。

「深刻な若者の失業率を抱えている」

「若者の失業率を低下させる」

「若者の失業率を下げる」

「若者の失業率を低い水準に抑える」

「若者の失業率を低くとどめている」

「若者の失業率を改善する」

「若者の失業率を減らす」

「若者の失業率を半減する」

次に、上で見た「住民に不安が広がっています」に含まれる「不安」にふさわしい述語を見てみます。

「不安が高まっています」

「不安が交錯していました」

「不安が大きくなってきています」

「不安を感じ始めています」

「不安が募っています」

「不安が続いています」

「不安が伴わなくなりました」

「不安を打ち消す知らせです」

同様に、上にあった「関心」、「懸念」、「環境」、「様相」、「形」など、他の頻出名詞についても、それらにふさわしい述部表現として、どういったものがあるかを考えるのは大変有益でしょう。

まとめ

英日通訳で有益な述部表現を、思いつくままに記してきました。あくまでも、ほんの一部です。常に、言葉に関心を持って、自分の使える表現を豊富に持ち合わせておきたいものです。日本語の類語同義語辞典や、日本語コロケーション辞典などを活用することも賢明だと思います。

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★ 次の通訳ブログ記事では、英日通訳で有益な接続表現をまとめています。こちら ⇩ をご覧ください。

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