通訳をするためには通訳技術を身につけなければいけませんが、その前に、通訳は人と関わるとともに情報を扱う作業であるという観点から、通訳者に求められる倫理を見ていきます。通訳者としての職務を遂行する上での決まり事です。通訳と一言で言っても、会議通訳、アテンド通訳、社内通訳、などさまざまな種類や場面がありますので一概には言えない部分もありますが、基本的な通訳倫理の原則を考えましょう。
参考にする主な資料は、EU(ヨーロッパ連合)の会議通訳倫理綱領、アメリカの医療通訳職務基準やカナダのコミュニティー通訳標準指針などですが、日本の通訳倫理に関する情報も参照しています。水野真木子氏の論文や、日本司法通訳士連合会、東京外大コミュニティー通訳協働実践型研究会、医療通訳士協議会が発信している資料などです。
正確性・忠実性
まず、当たり前のことですが、通訳者は話者の発言内容の全てを正確に、忠実に訳す努力をします。また、発言内容に無い意味や飾りを加えたり、反対に、発言に含まれている何かを省いたりしないのが原則です。話者の口調や表現方法が醸し出す雰囲気も可能な限り再現します。例えば、話者が専門用語を使ったら、訳の中においても専門用語を使うべきでしょう。理想的には、訳は、話者のしゃべった発言と同じ意味内容を伝え、同じ印象を聞く人に与えるべきなのです。
仮に、発言の中に重複している部分がある、あるいは、話している話題や文脈とは無関係の部分があると感じても、それを省いたりしません。また、失礼な内容だと感じても、原則として省きません。
ただし、正確であるというのは、単に言葉を置き換えるだけではありません。文化的な文脈を考慮に入れるということも必要です。それを怠ると、言葉は正確に置き換えられていても、聞き手に伝わる意味は話者が伝えたい意味に忠実ではないかもしれません。
英語と日本語ではコミュニケーションのスタイルが違います。英語の文化では、コミュニケーションがほぼ言語だけを通じてなされるため、言葉にあいまいさが少ない傾向があります。話者は、聞き手が発言を言葉の示すとおりに解釈するだろうと無意識に考えて話します。行間を読む文化とは状況が異なります。
一方、日本語の文化では、コミュニケーションが言語以外の要素に依存する度合いが高く、所作、声のトーン、価値観、感覚、話者の地位などが無意識に意思疎通を総合的にサポートしているのです。一を聞いて十を知る文化です。例えば、話者は、聞き手が背景などを理解しているだろうという前提で話す傾向があります。しかし、前後関係などの詳細が説明されないと、前提となっている文脈を知らない聞き手は発言を理解できないかもしれません。
通訳者は異文化コミュニケーションの専門家として、コミュニケーション・スタイルの違いを充分に把握して、本当の意味での正確で忠実な訳を提供する努力が欠かせません。
また、異文化に起因する問題ではなく、発言そのものが不明瞭で、話者の伝えたい意味が理解しにくい場合は、どうすればいいのでしょうか。一つの対応方法は、通訳者が話者に説明や言い換えを求めるということです。その際は、話者と聞き手の双方に対して、通訳者が意味の明確化を求めているということが分かるように配慮します。この点に関しては、下の「通訳者の役割領域」の部分でも触れます。
発言のスピードが速すぎて、通訳が付いていけないようなときは、どうしましょう。通訳者は、話者にスローダウンするように要請します。あくまでも、話者の言わんとする意味が聞いている人に正確に伝わることが大切です。通訳者はその目的が達成できるように、コミュニケーションの流れをある程度は管理します。
さて、もしも通訳者が自分の訳し間違いに気づいたら、どうすべきでしょうか。例えば、発言内容の一部を誤訳したとか、重要な単語を省いてしまったなどの場合です。当たり前のことですが、できるだけ早く間違いを正すのが賢明です。
なお、訳し間違いは必ずしも通訳者の力量不足に起因するわけではなく、原因は他にもあります。日英通訳の場合、日本語は単複の区別を常に明確にするわけではないので、例えば、話者が「彼は本を書きました」と話したときに「a book」なのか「books」と訳すべきなのかすぐには分かりません。また、子供と言っても何人なのか分かりませんし男か女かも分かりません。逆に英日通訳の場合は、例えば「brother」と話者が言った時「兄」なのか「弟」なのか分かりません。いずれにせよ、訳を続けていて誤訳が判明したら、なるべく早く訂正しましょう。
最後に、要約通訳を求められる場合を検討します。時間が限られているから発言内容を要約しながら通訳してほしいと言われることがあります。その際は、原則として、当該会議やイベントの双方の参加者から周知・合意を得る必要があるでしょう。
これに関する1つの例として、社内通訳など臨機応変な対応を求められる場合が挙げられます。例えば、ブレイン・ストーミングのような会議では、2人以上が同時に話すことがあります。そのような場合は、意見の要点を訳出するしかできません。あるいは、その会議の文脈を考慮してどの話者の発言が最も重要かを即座に判断してその人の発言を通訳するといった対応が必要かもしれません。そのような通訳形式をとるということを参加者が周知したうえで、通訳者はできる限り会議の目的達成の手助けをします。
守秘義務
通訳者は、職務を通して知り得た情報を当該の会議・イベントに参加していない人に漏らしてはいけません。そのような情報を自分の利益のために利用するということは、もってのほかです。
クライアントから受け取った資料の取り扱いにも気を付けましょう。必要以上にコピーを取ったりするのは避けましょう。また、通訳ブースに置き忘れたりするのは論外ですが、仕事が終わったあと資料が何らかの形で公開されたからといって、当該案件に関わっていない人とそれを共有したり資源ゴミとしてリサイクルに出すなどということは、すべきではありません。資料の処理に関してはクライアントや通訳エージェントに確認しましょう。
守秘義務の例外は、3つ考えられます。法により情報提供を要求された場合、人命や子供の安全にかかわる情報を知り得た場合、通訳品質の担保の為に当該会議・イベントに関わっている通訳者や通訳エージェントと情報を共有することが必要な場合です。
最後に、守秘義務についてもう一つ気を付けたいことがあります。仕事の依頼側から通訳者の通訳実績を尋ねてくる時があります。どのように通訳実績を提示すべきでしょうか。公に報道されている会議やイベントでの通訳ならば、実績の中で具体的な会議名・イベント名を使ってもよいでしょう。しかし、一般に公表されていない社内会議、セミナー、イベントなどの場合は、固有名詞の使用は避けます。依頼案件と同様の業界・業種での通訳実績が重要なのであれば、社名などの固有名詞や当該の会議やイベントの具体的な名称は含めずに、営業会議、教育企画会議、ウエブ・マーケティングセミナーというような一般的な言い方で業種は分かるような記載をすればよいでしょう。
公平性
通訳者は公平性を保つよう努めます。どちらかのサイドに有利に働くような通訳は避けなければなりません。通訳の仕方が偏っているというような印象をクライアントに持たれたら大きな問題です。
通訳者は、自分の先入観、好み、文化的な価値観などが通訳をしているときの言葉、口調、身振りなどに現れることが無いよう気を付けます。そういった潜在的な偏りによって、通訳の客観性が欠落したり、発話者と聞き手のコミュニケーションが阻害されることがあってはいけません。通訳は異文化間コミュニケーションであるという自覚を持って、自らの異文化理解に普段から努めます。
また、受注した仕事に利益相反(conflict of interest)の恐れがある場合は、そうであることをクライアントやエージェントに伝え、場合によっては、その仕事は引き受けないという姿勢が大切です。通訳での利益相反は、当該の会議や商談の結果が通訳者自身の利害にも影響するような場合ですが、単純な例を考えますと、家族や親戚、友人などが関わる場合は、頼まれた通訳を中立の立場で行うのが難しくなることが予想されますね。
関係者への敬意・配慮
通訳者は、当該の会議・イベントなどに関わっているすべての人に敬意をもって接します。これは、人の固有の尊厳を尊重するということにつながります。
ここで重要なことの一つは、上の公平性の項目の中でも触れた異文化理解です。例えば挨拶の仕方でも、文化的に異なる面があるかもしれません。人の称号・敬称はその人の文化・社会での用法に沿って正しく使うべきでしょう。また、伝統的な考え方、慣習やしきたりなどが意思疎通の障害になる場合も考えられます。例えば、医療通訳などでは、伝統療法と現代医学の摩擦が生じるかもしれませんし、経口薬を処方された患者が宗教的な理由で断食中であれば通訳者は医療従事者にそのことを伝えるべきでしょう。話者と聞き手の間で文化的な要因による誤解を避けるために重要なことです。
敬意を表すという観点から注意したいもう一つの点は、会議などの当事者がお互いに相手の方を向いて話すように配慮するということです。通訳の入る会議などに慣れていない話者が発言するとき、通訳者の方を見て話すことがあります。そのような場合は、しゃべるときは通訳者ではなく話の聞き手である相手の方を見て話すように促します。状況から判断して、事前にこのことを当事者に伝えておく配慮が望ましい時もあります。
また、ともに仕事をする他の通訳者に敬意を払うと共に精神的支援を提供することも不可欠です。例えば、同時通訳ブースで15~20分ごとに交代しながら二人で担当している場合、同僚が通訳をしていて自分が休んでいるときは、同僚に必要であろう固有名詞や数字などをメモして支援します。ただし、むやみやたらにメモ取りをすると、同僚の集中力をそぐことになりかねないので注意します。また、同僚への配慮として、狭いブースに入るときは香水などの使用も気を付けます。こういったことに関して、下でも触れるEU通訳サービスの通訳ブースマナーに関するビデオは(15分程度)は見る価値があります。
なお、同僚とのチームワークは重要で、事前のリサーチにおいても協力します。たとえ所属する通訳会社が異なる者同士でチームを組んだとしても、これは変わりません。
通訳の依頼側にも出来る限り配慮し、機転を利かせて、喜んでもらえるように努めます。例えば、少人数の食事の席での逐次通訳を依頼されたとします。参加者は、ホスト側の日本人2人、および日本語を解さない外国からの来訪客2人、そして通訳者1人だとします。実際に食事が始まると、日本人の一人はある程度英語を話せるということが判明。来賓と直接英語で会話しだしたという場面を思い浮かべてください。この人と、来賓は英語だけで意思疎通が出来ていますが、ホスト側のもう一人の日本人は取り残されているという状況です。この場合、即座に、英語での会話を区切ってもらって、当初の打ち合わせ通り逐次通訳をするというのが妥当でしょうか。原則としては、それでよいのでしょう。しかし、スムーズに進んでいる英語での会話に水を差したくなければ、英日方向だけ、英語を解さないホスト側の日本人のため「ささやき(ウイスパリング)」で同時通訳をするという対応も可能です。その方が、食事の参加者全員に喜ばれるのではないでしょうか。ちなみに、この日本人が発言をしたら、それは英語に逐次通訳するということになります。
通訳者の役割領域
通訳者の役割は何かというと、黒子ですね。主役は話者です。あくまでも、通訳者は出しゃばりません。職務の遂行にあたり、双方の当事者の意思疎通を可能にするという役割の域を出たり個人的にかかわったりしないことが原則です。例えば、当該の会議・イベントで話し合われているトピックについて個人的な考えを述べたりアドバイスを提供したりしませんし、当事者の発言に反応を示すというようなことは避けなければなりません。
通訳者がクライアントと会話するのであれば、個人的な情報は聞きだしたりしません。個人的な情報を偶然に知り得た場合は、それを他の人と共有しません。そもそも当事者とコンタクトを取ったり会話したりするのは、厳密にいうと、通訳品質の担保という目的だけの為であるべきでしょう。ただし、社内通訳やアテンド通訳などのような場合はこの限りではなく、その場にふさわしく対応します。
次に、これは上で述べた正確性・忠実性にも関連しますが、発話の内容が少し変だとか間違っているのではないかと思ったときは、訂正して訳すべきでしょうか。良識的に考えて明らかに単純な間違い(例えば和暦と西暦の換算ミスや人名・地名・国名など固有名詞の言い間違い等)は直して訳しますが、他は原則として修正すべきではないでしょう。通訳者の役割をわきまえ、主観を入れず忠実に訳します。いったん訂正し始めると、通訳者自身の考えが入った訳になってしまいます。さらに、誤った発言だと思いながらも忠実に通訳を続けているうちに、実は誤りではなかったことが判明するというようなことも実際にあります。
例外は、社内通訳など、自分の所属する組織の事情に精通すると共にその利害を念頭に置くことが前提とされる通訳です。発言者が何らかの言い間違いをしたら、適切に訂正することを求められていると言えるでしょう。
発話の意味が不明瞭で理解できないときはどうするのが適切でしょうか。可能であれば、当事者双方に対して、通訳者が理解できないので明確化・説明が必要であると伝えて発言内容の説明を求めましょう。その際は、通訳を聞いている人ではなく通訳者自身がそれを求めているということを明白にします。英語では、「The interpreter needs clarification. . . .」などのように、主語に「the interpreter」を使います。
ここでもう一つ考えたいのは、日本語のあいまいさという問題です。あいまいな発話を英語に訳すのは単純ではありません。文脈・顔の表情などを考えて、話者の意図を探る必要があります。話者が伝えたい意見・見解を話者自身が明確に表現できていない場合は、本来伝わるべき意味が伝わるような訳出を試みます。一方、あいまいな発言は、話者が計算して意図的にあいまいにしている場合もあります。意図的な場合は、それを通訳者の判断で明確にして訳すことは越権行為になりますので、注意が必要です。例えば、「善処します」などの訳しにくい日本語の表現は対応が難しいですね。話者が意図的にあいまいな話し方をしているのなら、訳で使う英語の文言も言質を与えないものであるべきでしょう。例えば「I’ll see what can be done about it」などの訳も考えられます。
仮にあいまいな発言が発端となって、後で問題が発生したら、あの時どう訳したのかと問われるかもしれません。そのようなときはどう対応すればいいでしょう。やはり、既に見た守秘義務にかんがみて、原則として、そのような質問には答えない、語らないのが賢明です。公開されたもの以外は、訳し方や通訳した内容などについて口外しません。
専門家としての振る舞い
基本的なことは、既に見てきたような倫理原則を念頭に置いたうえで、エージェントおよびクライアントとの取り決め・協約を遵守することですが、それに加えて特に注意したい点がいくつかあります。
まず、通訳品質の担保を実現するために事前の準備を怠らないということです。この点の詳細は別の記事「通訳の実務的な準備」に書きましたが、ここで触れておきたいことが二つあります。一つ目は、クライアントに対して資料提供を要請するということです。例えば、当日読み上げる予定の原稿などがあるのなら、そのコピーを請求するべきです。読み上げ原稿は無いが要約やアウトラインがあるという場合は、それのコピーを請求します。また、専門用語のリストなども可能なら提供するよう要請します。さらに、発言の中で引用をする予定があるのなら、その引用箇所を知らせるよう要請します。例えば、国際条約、法律、有名な人物のスピーチ、聖書、コーランなどから引用するのなら、引用箇所を要求します。一般に受け入れられている既存の翻訳があるならばそれを使うべきです。重要な引用の場合、文言を忠実に再現することが求められます。また、引用箇所は話者が早口でしゃべる傾向があるので、事前の情報が無いと通訳が追っていけないかもしれません。
ただし、クライアントも事前準備で忙しくてこのような資料を提供するのが困難かもしれないということを覚えておきましょう。通訳依頼側の状況も察しながら、資料請求を進めることが賢明です。
また、事前準備という点についてもう一つ、ここで留意したいことは、当該の会議やイベントの趣旨や目的を充分に理解するとともに、出席者がどのような人達なのかを把握します。通訳を聞くのが主に専門家なのか、一般の人なのか、あるいは子供なのかによって、使う語彙・用語などには配慮する必要があります。また、日英通訳の場合、英語が母国語ではない聴衆が多いのならば、理解されにくいであろうイディオムや表現はなるべく避けた方がよいかもしれません。
専門家として心得ておきたい次の点は、自分の実力に照らして、通訳品質の担保をできないような仕事は引き受けないということです。例えば、自分にとって全く新しい分野の仕事のオファーが来たような場合は、正確な通訳を可能にするための充分な事前勉強ができるのならば、引き受ければよいでしょう。通訳者としての向上につながります。しかし、そのような勉強をする時間が取れないと分かっているのに、何とかなるだろうと安易な気持ちで引き受けては、エージェントやクライアント、さらに、同僚の通訳者に迷惑をかけることになります。
次は、現場の状況に関することです。クライアントは必ずしも通訳の効果的な利用方法を充分に理解しているとは限りません。現場の環境が通訳品質に悪影響があるような状態かもしれません。もしも改善が可能ならば、通訳の専門家として提案をすることが望ましいでしょう。例えば、通訳ブースから話者や黒板(電子黒板)などが見えにくいとか、話者の音声の音量レベルが十分でないなどは、機材の調整で解決できる問題かも知れません。
なお、通訳者の服装は、基本的にはビジネス向きのものを選び、あまり華美にならないように気を付けます。実際には、当該の会議や行事の趣旨、現場の状況、参加者などにふさわしい服装を心がけます。
通訳当日は、現場へ早い目に到着して、設備の確認をし、同時通訳機材などの使い方を把握します。機材は会場によって異なる場合があります。数言語が使われる会議でリレー通訳をする場合などは、スイッチの使い方になれるのに少し時間がかかるかもしれません。筆者は、この点に関して失敗した経験があります。通訳をしている最中に、機材担当者が突然ブースに入ってきたと思ったら、本来「ON」にすべきスイッチが「OFF」のままだったのです。申し訳ない思いをしながらその後の通訳を続けました。
最後の点は、責任を持って職務を遂行するということです。仕事の拘束時間中には個人的な用事などは避けますし、仕事が終了するまでその場を去らないのは当然のことです。引き受けた案件は完了します。また、通訳が原因で問題が生じたら、他の人を責めるというようなこともしません。クライアントとエージェントに通訳者としての説明責任を果たします。
上でも触れたEU通訳サービスの短いビデオ(15分程度)は、同時通訳ブースでのマナーも含め、専門家としての振る舞いを学ぶ上で非常に有益です。
通訳技術を向上させる努力の継続
言語も人も、そして社会も、時代とともに変わります。したがって、通訳者は常に通訳品質の担保のために、勉強を継続しなければなりません。言語能力や通訳技術、文化的な知識の向上を普段から心がけ、新しい時事用語、専門用語、スラングなども把握する努力を続けます。英語のニュースも日本語のニュースも毎日読んだり聞いたりします。さらに可能であれば、通訳技術向上のためのワークショップやセミナーなどに参加するもの良いでしょう。
本を読むことも、有益です。通訳をしている最中に、最近話題に上った本の話が出るかもしれません。しかし、そういった本をどれもこれも読む時間は誰にもありませんね。一つできることは、書評を読むということです。例えば、『TIME』誌などのような刊行物には書評が掲載されていますし、インターネット上には書評を掲載しているサイトがたくさんあります。英語のサイトなら「book reviews」と検索をすれば見つかります。書評を読むだけでも読まないのと比べると、大きな違いです。
また、自分の仕事の後、同僚にフィードバックを求めることもプラスとなりますね。
結び
通訳倫理の原則を検討してきましたが、原則はあくまでも原則です。通訳は人と人とのコミュニケーションを円滑にする手助けをするサービスですから、実情に合わせた対応方法をその場その場で判断せざるを得ないこともあります。
そのような際に、どのように判断すればよいでしょうか。一概には言えませが、倫理原則は念頭に置いたうえで、当該の会議やイベントの目的が何なのかということと、クライアントを含め関係者に喜んでもらうにはどうすればよいのかということを考えて適切な対応を取るのが賢明でしょう。通訳者の職務を行う場では、異文化の関わりがあり、人と人とのインタラクションが行われます。予定外・想定外のことが起こることはよくあります。通訳者もクライアントもエージェントも人間ですからミスをすることもあります。しかし、相手に満足していただきたいという態度で仕事に当たれば、問題は最小限に抑えられて、スムーズに事が運ぶでしょう。