今回ご紹介する通訳訓練法は、クイック・レスポンス(口頭での速訳)です。
単語・語句単位での英日・日英即訳訓練から始め、センテンス・レベルでの英日・日英即訳速訳訓練を扱っていきます。
クイック・レスポンス — 目的・効果
クイック・レスポンスは、原文を聞いたら出来るだけ素早く、かつ目標言語において適切であるように口頭で置き換えていくというものです。
通訳はまごまごしているわけにはいきません。しかし通訳をすることに慣れていないと、言語間の語順や発想の違いなどに戸惑って頭の切り替えが即座にできなかったり、訳がすぐに思いつかなかったりして、まごつくことが考えられます。
同時通訳では当然のことながら、逐次通訳においても、なるべく素早く訳を言い始め、訳出し始めた文をどのように続けて完結するかを考えながら訳を続けるということをします。
クイック・レスポンス訓練をすると、原文を聞いたら、すぐに訳を言い始めることに慣れていきます。さらに、言い始めた文を続けて完結する力が養われます。
また、通訳者は、聞いている人になるべく聞きやすく分かりやすい訳を提供することが求められていますから、即訳訓練においても、字面にとらわれることなく、目標言語において適切な文章になるよう訳すことを目指します。言葉そのものというよりは言葉の示す「意味」を目標言語に訳すのです。
具体的な手順
ここでは、まず教材に含まれる語彙を確認し、語彙・語句レベルでの即訳訓練を行ってからセンテンスごとの即訳に移ります。しかし、語彙確認や語句単位での即訳訓練が不要でしたら、文単位の即訳訓練から始めれば良いでしょう。
教材の語彙
ここで使う教材は、VOA News Learning Englishに掲載されていたニュース記事です。記事に含まれている語彙で重要と思われるものを下にリストアップして和訳例を付けています。
health problems 健康被害
climate change 気候変動
the medical publication Lancet 英国の医学誌『ランセット』
reports 報告書
health measures 健康指標
heat deaths 熱死{熱中症による死亡}
infectious disease 感染症
hunger 飢餓
the Lancet Countdown project ランセットが主宰するプロジェクト「ランセット・カウントダウン」
2.4°C of warming 2.4℃の気温上昇
the cost of inaction 不作為のコスト
vastly outweigh 大幅に上回る
the costs of acting now 今行動を起こすコスト
code red for a healthy future 健全な未来に赤信号
dangerous trends 危険な傾向
at-risk populations リスクの高い人々{リスクの高い年齢層}
extreme heat 猛暑
cholera or dengue コレラやデング熱
coastlines 海岸線
the dangerous Vibrio bacteria 危険なビブリオ菌
the Baltic areas バルト海地域
the Northeast and Pacific Northwest of the U.S. 米国の北東部および太平洋岸北西部
malaria-spreading mosquitoes マラリアを媒介する蚊
wildfires 山火事
the world’s land surface 世界の陸地
extreme drought 極端な干ばつ
heat, fire, and drought 熱波、火災、干ばつ
The Pacific Northwest 太平洋岸北西部
extreme heat waves 極端な熱波
co-wrote 共同執筆した
impacts of climate change 気候変動の影響
paramedics 救急隊員
help pay for the burning of fossil fuels 化石燃料の燃焼を支援している
a UCLA public health professor UCLAの公衆衛生学教授
junk food ジャンクフード
語句単位の即訳訓練
それでは語句レベルでの即訳練習をしましょう。下の音源を再生して、英語が聞こえたら即座に日本語の訳を言ってください。上の和訳例は単なる例で、それに固執する必要はありません。
音源(英)
次に、日本語音源を再生します。語句が聞こえたら即座に対応する英語を言ってください。
音源(日)
文単位での即訳訓練
それでは、文単位の即訳訓練をします。
下に英語音源・日本語音源があります。いずれも、各文の後に文とほぼ同じ長さの無音部分があり、音源を途中でポーズしなくても即訳をその間にできるようになっていますが、おそらく一つの文の訳を終える前に次の文が聞こえてくることが多いと思います。可能な限りポーズをせずに練習しますが、ついていけない場合は、ポーズしてください。
一通り終わったら、自分の訳が目標言語(日本語または英語)の文として適切だったかを自己評価します。可能であれば自分の即訳を録音して確認すると、さらに良いと思います。
ご参考までに原文のスクリプトはこちら、和訳例はこちらにあります。
音源をポーズせずに淀みなく適切な訳ができるようになれば、別の教材に移れば良いでしょう。
音源(英)
音源(日)
追加教材
追加教材として、ここではCNN 10 のニュース音声(各文の後に無音部分を入れたもの)を下に掲載していますので、即訳訓練をしてください。
語彙・語句レベルの即訳訓練用の音源は掲載していません。必要でしたら、重要と思われる語句を前もって抜き出しご自分で録音して、それを使って即訳訓練をしましょう。あるいは、抜き出した語句を目で見て即訳練習をしても効果があると思います。
音源(英語)
ご参考までに原文のスクリプトはこちら、和訳例はこちらにあります。
音源(日)
自分で教材を準備
即訳訓練は瞬時に訳をすることに慣れて、淀みなく英日、日英の訳ができるようになるまで、上の教材のような長さのものを毎日または1日おきのぺースで行うのが望ましいと思います。そのための教材は、何でも構いませんが、ここで使用したVOA News Learning English やCNN 10 等は語彙が一定程度制限されており、初期の練習には適していると思います。
語彙・語句レベルの即訳練習については、必要でしたら、既に上でも触れましたが、ご自分で録音した音源を使用するか、語句を目で見て即訳練習をすれば良いでしょう。
センテンス・レベルの即訳訓練のための音源は、前もって各文の後に無音部分を入れておかなくても、即訳訓練をするときに、センテンスごとにポーズ機能を使えば良いと思います。(ダウンロードや録音済みの音源をパソコンで再生する場合はスペースバーを押すたびに「ポーズ」と「再生」が繰り返され便利ですね。)
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★ 今回は、通訳訓練の7つ目、クイック・レスポンス(即訳)をご紹介しました。
★ どのような訓練でも同じことですが、長時間の訓練を時々するというよりも、短時間の訓練を頻繁にするのが効果的です。
★ この通訳訓練シリーズでは、次に数字の訳出(Numbers)をご紹介しています。こちら ⇩ をご覧ください。
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★ 通訳に関心がある人にとって読む価値のある本を、こちらで ⇩ 紹介しています。