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日英通訳の工夫・コツのまとめ

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今回は日英通訳で有益な工夫をまとめています。

当然ながら、英日通訳と重なる部分もあります。以前に英日通訳のコツや工夫をまとめましたので、御覧になりたい方はこちら⇩をご覧ください。

ここでは同時通訳を念頭においていますが、逐次通訳においても、当てはまる内容が多いでしょう。

日英通訳で有益な工夫やコツも、基本的には、順送り訳(頭ごなし訳)をするための工夫です。英日通訳の順送り訳についてはこちら及びこちらでご紹介しています。

意味ユニットごとに頭ごなし訳

日英通訳で有益な工夫の一つは、すでに言及した順送り訳をするということですが、これは、要するに、意味のユニットごとに頭ごなしに訳すということです。ここで言う「意味のユニット」とは、センテンス(文)の構成要素で、何らかのまとまった意味を成すひとかたまりです。

「意味のユニット」については、こちらでご紹介しています。また、日英Sight Translationを扱った記事にスピーチのサイトラ例をいれてありますが、そこに意味のユニットごとのサイトラ訳例がありますのでご参考になさってください。

原文の品詞・構文にとらわれない

次の工夫のポイントは、意味のユニットごとに順送り訳をするためには、原文の品詞や構文にとらわれないということです。つまり、例えば原文では主語と述語からなるセンテンスであっても、それをあたかも名詞句であるかのように訳しても構いませんし、原文が受動態であっても能動的に訳しても構いません。品詞や文構造などといったことにはとらわれずに原文が伝えようとしている意味内容を英語で表現していくということです。

よく言われることですが、通訳者の役割は、あくまでも、話者の言葉の語句そのものではなく、それが伝えようとしている意味を訳出することにあります。

具体的な訳例等は、「通訳訓練(18)Sight Translation|日英」の「意味のユニットごとのサイトラ訳出練習」というところをご覧ください。

関係代名詞・関係副詞を活用する

日本語には、英語のような関係代名詞や関係副詞がありません。日英通訳では、この言語間の違いを念頭に置いて、関係代名詞や関係副詞を有効活用していきます。

例えば、話者が次のように話したとします。

私は20代の頃、通訳学校に半年ほど通ったことがあるのですが、これは職場の上司の勧めだったのです。上司は、当時すでに職場での通訳のニーズがますます高まることを予想していて、若いスタッフにそういう訓練を受けさそうと考えたのです。

これを同時通訳するのでしたら、例えば次のように訳しても良いかと思います。

When I was in my 20s, I attended an interpreting school for about six months at the recommendation of my boss at work, who already anticipated an increasing need for interpreters in the workplace at the time and wanted young staff members to receive such training.

通訳者が「my boss at work」と言う時点で、すでに、原文のその次のセンテンスの主語が「上司」がだと分かりますので関係代名詞でつないでいこうという訳になっています。

もう一つ例文を見ます。

母が私を妊娠中に父が亡くなり、母は祖母の家で私を産んだのですが、私が2歳になる頃までそこで暮らしました。

My father died while my mother was pregnant with me. She gave birth to me at my grandmother’s house, where we lived until I was about two years old.

もちろん、「She gave birth to me at my grandmother’s house, and we lived there until I was about two years old」でもいいのです。しかし、「where」を使ってつないでいってもいいのです。様々なセンテンスパターンを使えるようにしておくのが賢明です。

もう一つ例文として、上で言及した日英Sight Translationの記事で用いたスピーチから最初の部分を引用します(出典:「TICAD閣僚会合サイドイベント『アフリカにおけるビジネス機会』における佐藤外務副大臣挨拶」(外務省)を加工して作成)。

アフリカ各国代表団の皆様、日本及びアフリカ企業関係者の皆様、TICAD閣僚会合に先立ち、ビジネス・サイドイベント第一部「アフリカにおけるビジネス機会」が開催されますことを大変嬉しく思います。

通常の和文英訳ですと、下のように訳されることもあるかもしれません。

Government delegations from African countries, Government delegations from African countries, I am delighted that we are able to hold Part 1 of the Business Side Event “Showcasing Business Opportunities in Africa” prior to the TICAD Ministerial Meeting.

しかし同時通訳では、順送り方式で、「ビジネス・サイドイベント第一部『アフリカにおけるビジネス機会』が開催され」までを

Government delegations from African countries, Government delegations from African countries, prior to the TICAD Ministerial Meeting, Part 1 of the Business Side Event “Showcasing Business Opportunities in Africa” is taking place.

のように訳すこともできるかと思います。もしそのように訳すのでしたら、最後の「~ことを大変嬉しく思います」は、私だったら関係代名詞を使って「— which gives me great delight」のようにつないでいくだろうと思います。

長い文は複数の文に切る

日本語は長文になりがちです。通訳していると、日本語で話す話者のセンテンスがなかなか終わらなくて困ることがあります。原稿を読み上げるのではなくアドリブで話している話者の場合です。例えば下のような発話を私が通訳すると仮定しますと、原文通りの長い文という形に訳すのではなく、短い文に切りながら訳すだろうと思います。

学生が就活の際に何を重視しているかを毎年調査しているのですが、今年の傾向としましてはですね、在宅勤務、テレワーク等が可能かどうか、あるいは、どの程度可能なのか、例えば、週何日リモートワークができるかは確認している学生も多いようですし、そういった在宅勤務の有無ということに高い関心が集まっているようで、おおむね、リモートワークが柔軟にできる会社だと志望度が上がる傾向にありますね。

Every year, we conduct a survey to find out what students value when job hunting. This year, we have seen a trend where many students are checking whether or not working from home is possible, and to what extent. For example, many students are checking how many days a week they can work remotely, and it seems that there is a high level of interest in whether or not they can work from home. In general, companies that allow for flexible remote work tend to be more popular with students.

このように短文に切って訳す方が、通訳しやすいです。また、通訳を聞いている人にも、話者の伝えたいことが分かりやすくなると思います。

時間がないとき省いてもよい情報

通訳では、訳出する時間が限られており、情報を省く必要が生じる場合が時々ありますが、その際には、当然、情報の幹となる部分は残し、枝葉の情報を省きます。

例えば、日本語では意味の違いがあっても英語にはそのような違いがない2つの単語は、両方とも訳すというような必要はありません。一例として、上で使った就活についての例文の中に「在宅勤務、テレワーク等が可能かどうか、あるいは、どの程度可能なのか、例えば、週何日リモートワークができるかは確認している学生も多い」という部分がありましたが、「在宅勤務」も「テレワーク」の形態の1つですし、「テレワーク」と「リモートワーク」に言葉の意味としての違いはありません。したがって、「在宅勤務、テレワーク等が可能かどうか、あるいは、どの程度可能なのか」の部分は、「whether or not working from home and teleworking are possible, and to what extent」というように英語で2つの名詞表現を使う必要はありません。例えば「whether or not working from home is possible, and to what extent」というように訳しておいてもいいわけです。

要するに、話者のスピードについていくのが困難で何かを省く必要があるときは、何が重要なポイントなのかということを判断基準にして、枝葉の情報を省くわけです。

英訳しにくい表現も語句ではなく意味を訳出

日本語には英語になりにくい表現や語句がたくさんあります。そういった表現・語句を話者が使ったら、表面上の言葉を訳そうとせずに、その言葉で話者が伝えようとしている意味や意図をくみ取って訳出します。例えば、誰かが、新しいポストに部長として就任し、部署のスタッフに対して「皆さん、どうぞよろしくお願いします」とスピーチを締めくくったとしたら、その訳は「I look forward to working with you all」がふさわしいのかもしれません。

また、いろいろと大変な状況の中で一日の仕事を終えて一息ついた人に対して「お疲れさま」と話者が言ったら、その通訳は「It must have been a long day for you」などがふさわしいのかもしれません。

「よろしくお願いします」や「お疲れさま」以外にも、直接英語になりにくい日本語表現は、例えば、「根性」、「気合を入れる」、「これにこりずに」、「ご苦労様です」、「疫病神」など、いくつもあります。どのような表現を話者が使っても、とにかく、話者の伝えようとしている意味・意図を訳すのが通訳です。日ごろから、そういった表現を話者が使ったら、どう訳すだろうかということを考えるのは賢明なことでしょう。また、こういった表現の英訳を考える手助けとなる辞書なども有効活用してもいいですね。一例をあげますと、『日米口語辞典』等は便利だと思います。

勘を働かせ予測する

日本語は述語が文末に来ますので、センテンスがどのような締めくくり方になるのかは、厳密には文末まで聞かないと分からないのですが、それを一定程度予測することを可能にする表現が使われることもあります。

わかりやすい例をあげますと、「きっと」という表現は話し手の決意や確信を表すことが多いですね。例えば「様々な困難な事情もありますが、この会社は、きっと、2年後、3年後には、様々な課題に直面しながら、それらを(云々)・・・業績の回復軌道にのることができるでしょう」というセンテンスは「きっと」が聞こえてきた時点で、何らかの肯定的な内容で終わるんだろうと予測できます。「おそらく」も、確信度が一定程度高い推量を表すときの表現ですね。

また、「どうやら」は、「確信はないが、なんとなく・・・のようだ」(「どうやら、会社は新規採用を今年も見送るようだ」)という意味を表したり、「完全ではないが、なんとか・・・」というような意味を表したり(「どうやら完済までこぎつけた」)します。「けっして」と聞こえてきたら、そのあとには打消しや禁止などの意味を持つ語句が使われるのだと予想できます。

何らかの会合のオープニングのスピーチで「本日はご多用の中・・・」という文言が聞こえてきたら、参加者に対して出席してくださったことへの謝辞のようなことを述べるのだろうと推測できます。

こういった表現・語句だけでなく、内容の全体像や文脈をもとに、論理の展開に注目しつつ、話者の状況を想像したり、話者のしゃべり方のトーンをヒントにしたりして、勘を働かせて、ある程度は何らかの予測が可能な場合があります。

意味の誤解に気付いたら訳を修正

上で言及しましたように、ある程度は話の展開を予測しながら通訳を進めるのですが、話者が原稿無しに話す場合、話の筋の方向がよくわからない、どういう展開になるのかが読めないということも時々ありますし、予測が外れているということもあります。そのような場合は、可能な限り訳を修正します。

予測が外れる原因はいろいろありますが、私は特に次の3つを念頭に置いています。(1)日本語センテンスの長くなる傾向、(2)日英の文法的な違いに起因する問題、(3)日英の基本的な段落構成の違い。

(1)日本語センテンスの長くなる傾向:すでにこれには言及しましたが、日本語で原稿なしに話す場合はセンテンスが長くなる傾向があり、主語と述語が、非常に遠く離れていることが頻繁にあります。さらに、場合によっては、主語と述語がきちんとつながらないというようなこともありえるのです。主語だと思っていた名詞句が、最終的に聞こえてきた述語の主語ではなかった、というようなセンテンスです。原稿が無くても理路整然と話すことが出来る話者もいますが、必ずしもそのような人ばかりが通訳を使うとは限りません。

(2)日英の文法的な違いに起因する問題:文法的な問題の一つとして、英語は同じ名詞を繰り返し使うことを嫌い、代名詞を使う傾向がありますが、代名詞に性別があることが通訳を難しくするということがあります。

私は下のような類の発話をボランティアで同時通訳することが何度かありました。

先日私の4歳の子供が肺炎で入院したんです。いつもはすごく元気で、外で走り回るのが好きな子なんですが、1週間ほど前に風邪を引いたんです。風邪だから、そのうち治るだろうと思っていたんですが、なかなかすっきりしない状態が続いて、風邪が治るどころか熱が次第に高くなってきたから、受診したら肺炎になっていたということなんです。でも、入院して抗生剤を投与してもらい始めたら、元気が戻ってきたんです。3日目くらいには、病院にいるのが退屈で、早く外で走り回りたいと、男の子のようなことを言っています。

日本語は「子供」や「子」という言葉をよく使いますし、何度でも「子供」とか「子」といいますし、それで不自然ではありません。しかし、英語に訳す場合、「the child」とか「this child」などと何度も言うことは、やや不自然ですね。英語ではたいていの場合は、「my son」なのか「my daughter」なのか、どちらなのかということがはっきりする話し方をしたり代名詞を使ったりします。

仮に、この発話の通訳者は「My 4-year-old child was hospitalized with pneumonia. My child is usually very energetic and likes to run around outside」と訳を進めながら、男の子なのか女の子なのかはっきりしてほしいな、と思っていたところ「外で走り回るのが好きな子」という部分が聞こえてきた時点で、これは男の子だなと判断するとします。そうしますとその次から「he」、「his」、「him」を使って「but he caught a cold about a week ago. Since it was just a cold, I thought he would get better soon, but he continued to not show any signs of getting better, and instead of getting better, his fever gradually got higher, so I took him to the doctor and found out he had pneumonia. However, after he was hospitalized and was put on antibiotics, he regained his energy. By the third day, he was bored of being in the hospital and was saying he wanted to go outside and run around」というような訳をしていきます。しかし、この時点で「男の子のようなことを言っています」と話者が言うのが聞こえてきたので「なんだ、この子は女の子なのか!」ということになり、訳を修正する必要が生じます。もちろん、すでにしゃべってしまったことはやり直せませんから、やや苦し紛れの感がありますが、「Actually, this child, it turns out, is a girl…」のようなこと言って済ませることになるのかもしれません。

「子供」に限らず、他にも同様の難しさをもたらす単語がいくつかあります。その一つが「この方」という表現です。日本語では「この方」という表現を繰り返し使って話をしても問題ないですが、英語では同じ人に何度も言及する場合、普通なら代名詞を使いますね。

文法的な相違のもう一つの問題は、数の概念です。英語では、数が表立って表現されますが、日本語では必ずしも、そうとは限らず、単複の区別が不明瞭な場合があります。通訳していて、これは単数なのか複数なのか、どっちだ、と悩むことがあります。例えば、「妹は最近子供の世話で疲れて元気がないんです」と話者が言った場合、「子供」は「her children」と言えばいいのか「her child」と言えばいいのかは、この文だけでは分かりません。

(3)日英の基本的な段落構成の違い:通訳ではもちろん書かれた言葉ではなく話された言葉を訳すのですが、文章の書き方が話し方にも反映されますので、段落構成の違いを念頭に置いています。典型的な英語の段落では伝えたいことが何なのかを最初にしゃべり、それをサポートする理由や例、詳細情報などをその次に話します。しかし、一般的な話し方としては、日本語はその逆で、周辺情報を先に話して最後に話のポイント、つまり話者が伝えたい要点を述べます。通訳者は、話者の言いたいポイントをはっきりと分からないまま通訳を進めるということにもなりかねません。

上のような原因等により、予測が外れてしまって、誤解していたということに気づいたときは、訳をできる限り修正をします。どのような修正の仕方でも、その場と文脈にふさわしければ良いと思います。ご参考までに、修正をするときに使える表現の例をいくつか挙げます。

いずれにせよ、聞き手が発話についていけるように修正しながら通訳を続けることになります。

「~は」は主語とは限らない

上の「日本語センテンスの長くなる傾向」と一部重複しますが、日本語で「~は」と言いますと、文法的にはセンテンスの主語に言及していると思われがちですが、それを必ずしも主語として訳す必要はありませんし、また、主語として訳すと、その後をうまく続けていくことが難しくなる場合もあります。特に、原稿なしの発話や、内容がきちんと整理されていない発話や、長いセンテンスの場合は、要注意です。

上で見た就活に関する発話の例文は、あの部分の後に企業・業界の動向についての段落が1つあり、その後、下のように続きます。

学生は、もちろん、慢性的な人手不足の結果、採用市場は学生優位の状況となっていますから、初任給を高くして優秀な学生を集めようとする企業側の動きも知っており、そういった高い初任給にも関心はあるのですが、やはりそれだけではなく、働きやすさや働く環境と言ったこともかなり重要視している傾向が見受けられます。

普通の日本語文法に基づき、「学生は」を主語だととらえて、「Students」を主語とする英文でこのセンテンスを訳出し始めますと、原文は「学生は、もちろん、慢性的な人手不足の結果、採用市場は学生優位の状況となっていますから、初任給を高くして優秀な学生を集めようとする企業側・・・」と続いて行きますので、なかなか「学生」の述語が聞こえてきません。仕方なく、「Students, of course, as a result of the chronic labor shortage, the recruitment market is in favor of students…」というような支離滅裂な訳を続けるということになってしまいかねません。(もちろん、予測を働かせて「Students, of course, are aware …」のように訳してうまく切り抜けることが出来るかもしれませんが。)このような場合、「~は」を主語というよりは話題(トピック)を示す働きをしているんだととらえて、例えば、「With regard to students」等の表現を使っておくと、そのあと、何を言っても、どんな品詞を使っても構わないので、訳文を続けやすくなります

With regard to students, of course, as a result of the chronic labor shortage, the recruitment market is in favor of students, and there are companies that try to attract talented students by offering higher starting salaries. Students are aware of such corporate efforts and interested in high starting salaries, but I also see a tendency to place great importance on things like the ease of working and the working environment.

話題を示す表現を駆使

上で見た「with regard to」のような話題を提示する表現には、その他に、「as for」、「regarding」、「concerning」、「with respect to」、「as far as … concerned」、「with reference to」等があります。

「~は」に限らず、発話の中で、センテンスの主題といいますが、話題、トピックに言及しているんだと感じたら、話題を提示する表現を使うのが有効かもしれません。

側面を示す表現を駆使

話題を提示する表現と類似する英語表現に、側面を提示する表現があり、日英の通訳では、そういった表現を駆使することが、有効な場合があります。

日本語では、「~に関して」、「~の観点から(言うと[言えば・見ると・見れば])」、「~の面では」、「~の部分では」というような表現を使うことがしばしばあります。いろいろな訳が可能ですが、いろいろな場合に汎用できるという意味で便利な表現の一つのが、側面を提示する「in terms of」です。例を見てみましょう。

コスパの観点から見ると、これは何を意味するのでしょうか?

In terms of cost and performance, what does this mean?

このプロジェクトは広報という部分では非常に有益ですが、難点もあります。

Although this project has been extremely beneficial in terms of public relations, it does have some drawbacks.

総合病院とかかりつけ医の関係は、どのように相互に補完するかという観点から説明できます。

The relationship between general hospitals and family doctors can be explained in terms of how they complement each other.

側面を示す表現は他にもあります。上で見た話題を提示する表現と重なるものもありますが、いくつか挙げますと、「from the perspective of」、「in the context of」、「as far as … concerned」、「with reference to」、「when it comes to」、「pertaining to」、「in relation to」、「with respect to」、「with regard to」、「concerning」、「regarding」などが特に有効です。こういった表現をいつでも使えるようにしておくと便利だと思います。

例えば、上の最後の例文は「from the perspective of」を使っても良いと思います。

The relationship between general hospitals and family doctors can be explained from the perspective of how they complement each other.

文脈や理由を示す表現を駆使

何らかの出来事や新たな展開などについて話している場合、それがどういう文脈で起きているのか、生じているのか、どんな文脈で起きているから重要なのか等に言及する場合があります。そういった場合に有益な表現をいつでも使える状態にしておきたいものです。たとえば、「at a time when」、「as」、「due to」、「because (of)」などといった表現です。例文を見ていきましょう。

地球が気候変動による危機的状況に直面している今、若者たちがこうして声をあげ、気候変動に対する大人たちの対応に異議を申し立て、行動を起こしていることを、大人たちは真剣に受け止める必要があるでしょう。

At a time when the Earth is facing a crisis caused by climate change, young people are speaking out, challenging the adult response to climate change, and taking action, and adults need to take this situation seriously.

地球温暖化が進むにつれて、今後数十年間で異常気象の激しさが増すと予想されます。

As Earth continues to warm, increasingly severe weather events are expected in the decades ahead.

安全性に対する懸念から、化学農薬は今後、園芸用品店からが徐々に姿を消していくと予想されています。

Due to safety concerns, chemical pesticides are expected to gradually disappear from garden centers in the future.

分詞の活用

分詞は、うまく使えば訳がすっきりしたり、聞き手に分かりやすくなったりします。また、通訳者が話す音節数を減らす効果もあります。例文を見て考えましょう。

大雨で増水した川の堤防が決壊し、住宅9棟が流されました。

The river swollen by heavy rain burst its banks, washing away nine houses.

二人は何年か前から知り合いですが、初めて会ったのは同じで大学で勉強していた時です。

They have known each other for some years, having first met when they were both studying at the same university.

サイバー攻撃が起きた5月14日に、田中さんは、昨年8月に診断された症状の治療の最終段階に近づいていました。

On May 14, when the cyber-attack occurred, Mr. Tanaka was nearing the final stages of his treatment, having been diagnosed in August last year.

最終試験が迫ってきたとき、彼らは一緒に勉強することにしたのです。

With their final exams approaching, they decided to study together. 

彼は今セメスターに授業を4つとっていますが、そのうち2つは選択授業です。

He is taking four courses this semester, two of them being optional.

地球温暖化によって、地球の海流が停止し、新たな氷河期が到来するかもしれないのです。

Global warming may cause the Earth’s ocean currents to shut down, bringing about a new ice age.

文脈や状況を示す「with + 分詞」という構造の現在分詞を使った例文を上で一つ見ましたが、この分詞は現在分詞でも過去分詞でも構いません。

同社は、すでに全国で40店舗を展開していますが、今後2年間でさらに数十店舗の開店を予定しています。

The company already has forty stores throughout the country, with several dozen more planned for the coming two years.

ワクチン接種を完了した人は人口の約20%に過ぎず、感染力の強いデルタ株が引き続き感染急拡大しています。

With only about twenty percent of the population fully vaccinated, the highly infectious Delta variant is still surging.

火災が迫る中、遠隔地に住む人々は、空輸避難を要請しています。

With fires approaching, people in remote communities are asking to be airlifted out.

また、文脈というよりは追加情報というほうが適切なのかもわかりませんが、この「with」と分詞を含む構造の次の様な使い方も有効だと思います。

洪水による正式な死者数は37人となり、少なくとも11人が依然行方不明です。

The official death toll in the floods has risen to thirty-seven, with at least eleven still missing.

便利な動詞

これも順送り方式で、頭ごなしに訳していく同時通訳で有益といいますか、必要な時があると思いますが、頭の中にある原文の意味内容をとにかく英語に表現したいときに役に立つ動詞表現をいつでも使えるようにしておくことが賢明だと思います。特に有効だと私が思う動詞はreveal」、「result in」、「lead to」、「enable」、「allow」、「help」、「have」(使役動詞)等です。

下の例文を見てください。

マニュアル通りに手順を踏んでいるのになかなか解決できないような問題は、発想の転換を試みると、案外見えなかった解決方法が見えてくるのです。

発話者が比較的ゆっくりと話しているのでしたら、例えば次のように同時通訳する場合もあるかもしれません。

訳例1: Even when you are following the steps in the manual, you may not be able to solve problems sometimes. At such times, if you try to change your way of thinking, you may find a solution that you didn’t see before.

しかし、話者の話す速度が速ければ、このような訳仕方では非常な早口になるか、通訳者がついていけなくなるかと思います。また、話者が速く話しているのなら「マニュアル通りに手順を踏んでいるのになかなか解決できないような問題は」までをまとめて訳すということにもなるかもしれません。

訳例2: When you have a problem you can’t solve even after following the steps in the manual, if you try to change your way of thinking, you may find a solution you didn’t see before.

これでもいいですが、これだと従属節が2つ続きますので、聞き手にはやや分かりにくいと感じられるかもしれません。

それに対して、次のような訳はどうでしょうか。

訳例3: When you have a problem you can’t solve even after following the steps in the manual, trying to change your way of thinking may reveal {result in} a solution you didn’t see before.

あるいは、

訳例4: When you have a problem you can’t solve even after following the steps in the manual, trying to change your way of thinking may allow you to see a solution you couldn’t think of before.

または、

訳例5: Problems you can’t solve by following the steps in the manual may be able to be dealt with by changing your way of thinking — which may lead to {reveal} a solution you didn’t think of before.

あるいは、上で見たトピックを示す表現を使って訳を始めるという方法もあるでしょう。

Regarding {Concerning} problems you can’t solve by following the steps in the manual, trying to change your way of thinking may enable you to see a solution you couldn’t think of before.

逆接を示す表現

工夫というよりも普通の表現ですが、「although」、「while」、「nevertheless」、「despite」など、逆説を示す表現も大変便利ですので、ここに含めています。例文を見ていきましょう。

京都はよく知っているつもりですが、訪れるたびに今まで見たことのない場所を発見します。

Although I think I know Kyoto well, I still discover places I’ve never seen before every time I visit.

雪は降っていたのですが、それほど寒くは感じなかったんです。

Although it was snowing, it didn’t feel very cold.

続編のストーリーは良かったのですが、思ったほどは楽しめませんでした。

The sequel had a good story line, although I didn’t enjoy it as much as I thought I would.

彼は優れた選手でしたが、彼がいるからといってファンがチケットを買いに来るようなタイプの選手ではなかったのです。

While he was a good player, he was not really the type of player who would entice fans to buy tickets.

国際的な圧力が高まっているにもかかわらず、和平交渉はほとんど進展していません。

Despite mounting international pressure, the peace talks have made little progress.

残念ながら、多くのアトラクションは閉鎖されています。天候を心配しているのはわかりますが、それでも残念です。

Unfortunately, many attractions are closed. I understand that they have weather worries, but it is disappointing, nevertheless.

訳が思いつかない語句の対応策

もしも通訳中に英訳が浮かんでこない単語や語句があったら、どう対応すればよいのでしょうか?英日通訳のコツに関する記事の「日本語訳が分からない語句の対応策」で書いた内容に準じるのですが、私は次の2つの策のどれかを使います。

(1)上位語で置き換える

訳語が分からない単語(語句)の上位語(その言葉が意味する概念の範囲を含めるさらに広い範囲の概念を意味する言葉)で置き換えます。例えば、発話の中に「レンゲツツジ」という語句が出てきた場合、これはツツジの一種だと分かっているのでしたら、単に「azalea」と訳すことも1つの手です。(発話者が、様々なツツジの種類の話を詳しく論じているのであれば、この方策はふさわしくないかもしれませんが。)

(2)羅列の場合は「etc.」や「and so forth」等と言う

2つ目は、いくつかのものがリストアップされていて、その中に訳語が思いつかないものがある場合の方策です。例えば、仮に同時通訳している発話の中に次のような部分があるとします。

後見人等が行う支援のうち、「財産管理」は、預貯金の払戻し、口座の解約、自宅・アパート・駐車場等の管理・処分、税金・医療費・家賃・ローン・施設利用料等の支払いなど、多岐に渡ります。

仮に「施設利用料」という語句の英訳が即座に思いつかない場合は、どうするでしょうか。私だったら、その部分は「etc.」等で置き換えると思います。この置き換えによって生じる情報の欠落はさほど大きな問題ではないと思うからです。

Among the support provided by guardians, “asset management” includes tasks such as withdrawing savings and deposits, closing accounts, managing and disposing of homes, apartments, parking spaces, etc., and paying taxes, medical expenses, rent, loans, etc. Indeed, the asset management support covers a wide range of matters.

むすび

今回は日英通訳で有益な工夫について、まとめました。また、追加の工夫などが浮かんで来たら、付け加えようと思います。

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★ 通訳に関心がある人にとって読む価値のある本を、こちらで ⇩ 紹介しています。

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